ナショナルエコノミー プレイレポート
『national economy』、国民経済。
ちょっとボードゲームには重すぎるタイトルじゃないですか? だって国民経済なんて国家的な話じゃないですか、国家という存在、統一通貨、国内の経済の流れ、そういった話をボードゲームで?
…あ、プレイヤーはただの事業家で、資産を増やすだけのゲームなんですね。安心しました。 そういうわけで、よく中身を知らずにその直球タイトルと一人でも遊べる点、 スパ帝の名前に惹かれてナショナルエコノミーというボードゲームを買いました。
果たして名は体を表すゲームであるのか。 扱うリソースは単純ながら、一手の重みが非常に重い、その上でスピーディなゲーム性。 ナショナルエコノミーのプレイレポート、始めます。
このゲームのルールは以下で全て公開されているため、誰でも閲覧が可能です。 合わせて見ていただくことで、より理解が深まることでしょう。この記事を読むだけであれば、 でてきた用語の説明をちょっと追うだけで十分です。
このゲームをもしプレイされる場合はルールブックを適当に読んで始めるのはおすすめしません。 ルール自体は単純ながら、どこかのルールを見落とすと全く違うゲームになってしまい、 奥深さの多くを失ってしまうためです。ルールはきちんと読みましょう。
http://spa-game.com/images/NE_Rules.pdf
ゲーム上のリソースと勝利
このゲームの勝利条件は非常に単純、一番資産を多く持ったプレイヤーの勝ちです。経済ですからね。
各プレイヤーのリソースとして「所持金」「手札」「労働者」「建物」の4つがあり、共有資産として「家計」「公共職場」、 そしてゲーム外に余ったカードやお金を置く「サプライ」があります。 プレイヤーは「労働者」を働かせてとにかく資産を増やすことを目的とします。
各プレイヤーが雇っている「労働者」は「建物」と「公共職場」にある職場で働かせる事ができ、どれもプレイヤーのリソースを潤してくれます。例えば…
- 《露店》で「所持金」を稼ぐ
- 《鉱山》で「手札」を補充
- 《学校》で使える「労働者」を増やす
- 《大工》で自分だけが使える「建物」を建てる
多くの職場に「労働者」を送り込むことで、プレイヤーの資産を増やすことができます。 「労働者」を増やして人海戦術で荒稼ぎをすることも、自分だけの「建物」をたくさん建てて大量ドローで気持ちよくなることも出来ます。
早速労働者をこき使って大金持ちになるぞ、すぐ始めよう?…ちょっと待って下さい。 とても大切なルールがあります。
給与と「家計」
丁稚奉公ではありませんから、労働をさせた後にはきちんと労働者に給与を支払う必要があります。今日の経済では当たり前ですね。 給与を払わない、来月まとめて払うからなんて違法行為は許されず、強制的に支払いが行われます。
この給与システムがこのゲームに置いて最も重要かつ一手の重みをより重くする要素となっています。 プレイヤーは給与を支払い、支払った給与は「家計」に置かれます。しかし、これを繰り返していると所持金が尽きてしまうので、 何らかの手段でお金を稼がなくてはなりません。
ならばと《露店》(手札を1枚捨てて「家計」から$6を受け取る)で労働者を働かせたいとします。 《露店》に自分の労働者カードを置いて、「家計」から$6を……あれ?
そうです、初期状態では「家計」には$1も置かれていないのです。 このままでは労働者に給与を支払えません。大変です。労基署行きです。このゲーム早くも詰みでしょうか。
安心してください。このゲームにはゲーム外の「サプライ」からも お金を獲得できるシステムがあります。「サプライ」からお金を獲得する方法はひとつだけあり、それは自分の持っている「建物」を売却することです。 売却した「建物」はプレイヤーの資産からは離れますが、公共職場に追加されます。大丈夫、売ってしまってもあなたの作った職場でまだ誰かが稼ぎをあげられますよ。
え?せっかく作ったのに売らないといけないの?
「サプライ」という魔物
はやる感情を落ち着けて、ここまでを整理してみましょう。
- 家計
- プレイヤーが支払った給与が置かれる
- 《露店》などの効果ではここからお金を得られる
- 最初は何も置かれていない
- サプライ
- ゲーム外の領域で、余ったお金は全てここに置かれる
- プレイヤーが建物を売ることでのみここからお金を獲得できる
「家計」にお金を入れるためには、誰かが「サプライ」からお金を入手しなければなりません。 そのときは必ず訪れ、厳しい要求ですが、自分で作った「建物」を売却しなくてはなりません。 そしてそのためにもプレイヤーは「建物」を作らなくてはいけません。
どの建物を建て、どの建物を売り、労働者をどこで働かせれば… 「サプライ」の存在によって、各プレイヤーは各ラウンドで、『どうすれば最も資産を増やしながら給与を支払うことが出来るか』を考えながらプレイする必要が発生します。 資産を燃やして資産を得るという行為は、『経済』の名を冠するゲームにふさわしく、「サプライ」はプレイヤーに選択の苦しさと選択の楽しさを同時に与えてくれるのです。
「サプライ」と国家
さて、このゲームシステムには当然思うところがあるでしょう。 いくらゲームでもこんなの許せない!俺のものを吸い上げた上に配るなんて! これは本来俺の資産だ!……でもこれってどこかで見たことがあるような気がしませんか?
「サプライ」と「家計」の関係は、国家と市場の関係を荒っぽく表現した形とイメージできます。 「建物」を売却して「サプライ」からお金を得て「公共職場」が増えるという一連の流れは、 ちょうど公共事業によって働く場所をつくり、そこで雇用が生まれることと同じように見えます。 そして公共事業では国家(「サプライ」)から市場(「家計」)にお金が流れ、市場内でお金が巡っていくのです。
つまるところ、これは非常に単純なモデルの国民経済なのです。 この強制的に売却させるゲームシステムは、理不尽に選択を与えるだけの存在ではなく、国民経済という、『national economy』という 言葉を強く表現したシステムとなっています。(税金取られないだけ現実よりマシです)
プレイヤー同士の競争
このゲームは経済のゲームです。 市場経済においては外せない概念がこのゲームにも存在します。競争です。 このゲームの競争は勝利条件への競争だけではなく、毎ターンごとに発生します。
プレイヤーの共有資産である公共職場は、誰かがこのラウンドですでに労働者を働かせていた場合、他のプレイヤーはその場所を利用できなくなります。 強力な効果を持つ職場は人気のためすぐに取られてしまうのです!
ゲームはプレイヤーが順番に行動するため、このままではじゃんけんで勝敗が決まってしまうところですが、 それを見越してこのゲームには《採石場》という職場があります。ここで労働者を働かせると、なんと次のターン最初に行動できるようになります! 強い職場のために《採石場》を使うか、それとも2番目に強いところで働かせるか…これらのリソースも当然取り合いの対象です。
こうして、このゲームでは常に小さな競争が発生し続けるようになっています。 市場で行われる争いがゲームの中で楽しく表現されていると感じます。
所感
このゲームは、とにかくリソースを管理するだけのゲームです。ゲームシステム的にはそれだけです。 ここまで書いた経済要素も、考えなければ意識することはありません。ただのリソース管理ゲームです。 しかし、ただのリソース管理にこれだけ多くのことを感じさせることが出来るのがこのゲームの優れたところでしょう。
欠点としては、リプレイの感覚が似たようなものになりがちな点でしょうか。 建物同士のシナジーが大きいわけではないので、ゲーム展開が前回プレイと近い、ということが起きがちです。 これらの問題は次回作以降で改善されているそうなので、次回作以降(ナショナルエコノミー・メセナ、ナショナルエコノミー・グローリー) にも興味が出てきました。買うかも。
ちなみに、このゲームは購入しなくてもソロモードであれば無料プレイできます。太っ腹ですね。 実際に紙で遊ぶほうが興奮しますが、ゲーム性は変わらないので試してみてはいかがでしょうか。 rev84.github.io
追記
上記のweb版で軽く遊んでみました。
画像の[2]とか数字が書いてあるのが自分が建設した建物で、上の枠が公共職場、下の枠がプレイヤーの所有する建物です。 4つの建物を持ってゲームを終えるために7つの建物を売りました。ソロモードは厳しい。